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ひとりすもう

ひとりすまう

織田 作之助

「海風 第三号」1938(昭和13)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,706 字 · 40 页

青空文庫

た。すると、明日子が手紙の中で彼のことに触れていることを想い合わせて、別れるといったものの、あるいは之からも案外腐れ縁のまま二人の関係は続いて行くのではなかろうかと、ふと、ぼくを苦しめたあの夜のことを想い、瞬間さっと心が影ったけれど、しかしそれならば、それでいいではないか、ぼくにそれを干渉する何の権利もない筈だと、無理にその心の翳を払いのけようとした。と、ふと、轡川の大きな赤い鼻の上に蠅が一匹停っているのが眼についた。彼は鈍感なのか、三宝柑をたべるのに夢中になっているのか、それに気が付かない様だった。ぼくは、急に、アハハハハと笑い出した。咳が出て困った。コンコンと咳きながら、ぼくの頭は、はたして明日子に就ては、轡川の言ったことが真実か、明日子の言ったことが正しいのか、と又もや考え出していた。だが、それは、二十一歳の当時のぼくには解き難い謎だった。

(彼の話はここで終った。筆者は、彼の残した最後の謎に就て、次の様に考えた。それは――恐らく轡川と明日子の最初の交りは、明日子が暴力で辱しめられたのでも無ければ、轡川が明日子に誘惑されたのでも無いだろう。しかしまた、そういう交りは、女の方から見れば、多少とも男が暴力をふるったと見えぬことも無いだろうし、一方、男の方から見れば、女が多少とも挑撥した(たとえ女自身無意識