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まじょりかざら
まじょりか皿
寺田 寅彦
「ホトトギス 第十二巻第四号」1909(明治42)年1月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,089 字 · 9 页
見かえるように美しい。いつになく少しはにかんだような笑顔を見せて軽く会釈しながらいそいそ奥へはいった。竹村君は外套の襟の中で首をすくめて、手持無沙汰な顔をして娘の脱ぎ捨てた下駄の派手な鼻緒を見つめていたが、店の時計が鳴り出すと急に店を出た。
神田の本屋へ廻って原稿料の三十円を受取った。手を切りそうな五円札を一重ねに折りかえして銅貨と一緒に財布へ押しこんだのを懐に入れて、神保町から小川町をしばらくあちこち歩いていた。美しさを競うて飾り立てた店先を軒ごとに覗き込んでいた。竹村君はこうして店先を覗くのが一つの楽しみである。ことに懐に金のある時にそうである。陰気な根津辺に燻ぶっていて、時たま此処らの明るい町の明るい店先へ立つと全く別世界へ出たような心持になって何となく愉快である。時計屋だの洋物店の硝子窓を子供のようにのぞいて歩いた。呉服屋には美しい帯が飾ってあった。今日ちらと見た紙屋の娘の帯に似ている。正札を見ると百二十円とあった。絵葉書屋へはいったら一面に散らした新年のカードの中には売れ残りのクリスマスカードもあった。誰に贈るあてもないが一枚を五十銭で買った。