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ろまんどうろう
ろまん灯籠
「婦人画報」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,222 字 · 74 页
もはや八十を過ぎている。毎日、用事ありげに、麹町の自宅の裏門から、そそくさと出掛ける。実に素早い。この祖父は、壮年の頃は横浜で、かなりの貿易商を営んでいたのである。令息の故新之助氏が、美術学校へ入学した時にも、少しも反対せぬばかりか、かえって身辺の者に誇ってさえいたというほどの豪傑である。としとって隠居してからでも、なかなか家にじっとしてはいない。家人のすきを覗っては、ひらりと身をひるがえして裏門から脱出する。すたすた二、三丁歩いて、うしろを振り返り、家人が誰もついて来ないという事を見とどけてから、懐中より鳥打帽をひょいと取出して、あみだにかぶるのである。派手な格子縞の鳥打帽であるが、ひどく古びている。けれども、これをかぶらないと散歩の気分が出ないのである。四十年間、愛用している。これをかぶって、銀座に出る。資生堂へはいって、ショコラというものを注文する。ショコラ一ぱいに、一時間も二時間も、ねばっている。あちら、こちらを見渡し、むかしの商売仲間が若い芸妓などを連れて現れると、たちまち大声で呼び掛け、放すものでない。無理矢理、自分のボックスに坐らせて、ゆるゆると厭味を言い出す。