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わがちち

わが父

宮本 百合子

「中央公論」1936(昭和11)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,314 字 · 19 页

青空文庫

ところが、この祖父は僅か六十一歳で没した。その時お俊お婆さんは涙をこぼしながら、こんなに早く死ぬのだったら薄茶ぐらい飲ませてやればよかった、お運、立ててやれと、嫁である祖母に云って供えさせたそうだ。父は、このこわかったが物わかりはよかった祖母さんに、精一郎はお皿だ、と批評されたことがあったとその晩笑って云った。

「間口がひろくて、浅いところは我ながら成程適評だと思うね」

「――でも、お父様は小皿じゃないわ。かなりなお皿よ、深い大きい壺もその上にのせることの出来る皿だわ」

そんな話もした。それから別の夜であったが何かの拍子で、母が父と結婚の式をあげた夜、襖ぎわまでころころころころ、ころがって行ってしまって夜じゅうそこから到頭離れずじまいだったという話が出た。私には父のその話し方がいかにも気に入った。父も母も愛らしく思いやられた。

「それでお父様はどうなすって?」

「どうするって……困ったようなものだが、つくづく無理もないと思ったね。何しろいきなり見ず知らずの家へ連て来られて、これが亭主だと云われたところで――困ったんだろう」

母の存命中、二人は率直な性質から誰の目にもわかるような口争いをよくしたが、亡くなった後は、常に尊敬をもって母のことは語っていた。