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わがまち

わが町

織田 作之助

「文藝 第十巻年十一号」改造社、1942(昭和17)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,869 字 · 52 页

青空文庫

しんどても構へんか。」

そして、客を拾って、他吉が走りだすと、君枝はよちよち随いて来た。他吉は振りかえり、しばしば提灯の火を見るのだと立ち停って、君枝の足を待ってやるのだった。客が同情して、この隅へ乗せてやれと言うのを、他吉は断り、いや、こうして随いて来さす方があの娘の身のためだ、子供の時苦労をさせて置けば、あとで役に立つこともあろうという理窟が、――けれど他吉は巧く言えなんだ。よしんば言えたにしても、半分は不憫さからこうしているのだ、いや、マニラで死んだこの娘の父親がいまこの娘と一しょに走っているのだという気持が、通じたかどうか、――客を送ったあとの俥へ君枝を乗せて帰る途、他吉はこんな意味のことを、くどくど君枝に語って聴かせたが、ふと振り向くと、君枝は俥の上で鼾を立てていた。

「船に積んだら、どこまで行きゃァる。木津や難波の橋の下ア……。」

他吉は子守歌をうたい、そして、狭い路地をすれすれにひいてはいると、水道場に鈍い裸電灯がともっていて、水滴の音がぽとりぽとり、それがにわかに夜更めいて、間もなく夜店だしが帰って来る時分だろうか、ひとり者の〆団治がこそこそ夜食を食べているのが、障子にうつっていた。