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わがまち

わが町

織田 作之助

「文藝 第十巻年十一号」改造社、1942(昭和17)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,869 字 · 52 页

青空文庫

ところが、それから一年経ったある日。〆団治が君枝と次郎を千日前へ遊びに連れて行き、ふと電気写真館の陳列窓を覗いて、

「君ちゃん。見てみイ。お前のお父つぁんとお母んの写真が出てるぜ。」

と大声だした。君枝の父親が町内のマラソン競争に優勝した時の記念写真が、三枚五十銭の見本の札をつけて、陳列してあったのだ。出張撮影らしく、決勝点になっている寺の境内で、優勝旗を持って立っているのを、境内いっぱいにひきまわした幕のうしろから、君枝の母親が背伸びして覗いている顔が、偶然レンズにはいっている。未だ結婚前の写真らしく、そんなことから二人の仲がねんごろめいたのか、君枝の母親は桃割れを結って、口から下は写っていなかった。

「お母ちゃん居たはれへんわ。」

「居てる、居てる。これや、ここをよう見てみイ、ほら、この幕のうしろに、ちょびっと顔が……。」

「ああ、居たはる、居たはる。お父ちゃんもお母ちゃんもいる。」

そして、きんきんした声で、「わて、もう親なし子やあれへんなア。」

その日から、君枝はだんだん明るい子になり、間もなく行われた運動会の尋二女子の徒歩競争では、眼をむき、顎をあげて、ぱっと駈けだし、わてのお父ちゃんはマラソンの選手やった、曲り角の弾みでみるみる抜いて、一着になった。