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わがまち

わが町

織田 作之助

「文藝 第十巻年十一号」改造社、1942(昭和17)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,869 字 · 52 页

青空文庫

「そんならそれと、はじめから言って呉れたら良えのに……」

何も一杯くわさずともと、君枝はちょっとふくれたが、しかし、あとで、大笑いの酒という茶番めいたものもなく、若い次郎はともかく、他吉も鶴富組の主人も存外律義者めいた渋い表情であった。

とりわけ他吉は精一杯にふるまい、もう君枝が鶴富組の主人に気に入らねばどうしようという心配も、はらはら顔に出ていた。他吉にしてみれば、君枝を何ひとつ難のない娘に育てたという気持は、ひょっとすれば大それた己惚れであるかも知れず、それに比べて、次郎は三日前鶴富組の主人が他吉に語ったところによると、人間はまず年相応には出来ているし、潜りの腕もちょっと真似手がなく、おまけに眼もおそろしく利いて、次郎が潜ってこれならばと眼をつけた引揚事業で、これまで失敗したのは一つもなかったということだ。君枝に過ぎた婿だと、ひとつにはそこを見込んで、他吉はさそくに話を纏めたのだった。

そうして次郎と君枝は結婚して市岡の新開地で新世帯をはじめたが、案の定次郎は婚礼の翌々日から、もう水の中に潜るというくらいの働き者だった。他吉はわいの見込みに狂いはなかったと喜び、隠居してこの家に住めという次郎の薦めを断って、「阿呆ぬかせ。