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わがまち
わが町
織田 作之助
「文藝 第十巻年十一号」改造社、1942(昭和17)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,869 字 · 52 页
という〆団治の話を聴いて、いつの間に君枝や次郎の眼をぬすんで寝床を這いだして来ていたのか、それは他吉だった。
上衣のポケットに新太郎が寄越した色あせた手紙がはいっていたので、身元はすぐ判った。
死骸はもとの寝床に戻った。壁の額に入れられたマラソン競争の記念写真の中から、半分顔を出して、初枝がそれを覗いていた。
羅宇しかえ屋の婆さんがくやみに来て、他吉の胸の上で御詠歌の鈴を鳴らし、
「他あやん、良えとこイ行きなはれや。」
と、言うと、君枝は寝床の裾につけていた顔をあげて、
「おばちゃん、お祖父ちゃんは、もうちゃんと良えとこイ行ったはる。南十字星見ながら、行きたい行きたい言うたはったマニラへ到頭行かはったんや。〆さんより早よマニラへ着きはった……。」
と言った。鈴の音が揺れた。
次郎はふと君枝の横顔を見て、ああ、他あやんに似ているとどきんとした咄嗟に、今度は自分たちがマニラへ行く順番だという想いが、だしぬけに胸を流れた。他あやんはついぞこれまで、言葉に出しては、アメリカの船を引揚げにマニラへ行けとは言わなかったけれど、そんな風に死んだのを見れば、もう理窟なしにそうしろと命じられたのも同じだ、いや、君枝を娶った時からもうこのことは決っていたのだという想いが、何か生理的に来て、次郎は額の写真を暫らく見上げていた。