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わがちをおうひとびと

わが血を追ふ人々

坂口 安吾

「近代文学 第一巻第一号」1946(昭和21)年1月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,546 字 · 21 页

青空文庫

この安らかな蒲団の奴が、と彼は蒲団をはねのけて腰のヂシビリナ(鞭)を握りしめたが、わけの分らぬ絶望のために放心し、両手に顔を掩ふてゐた。まだ街はねむつてゐたが、二官の家では四郎父子の出発のために立働く音がしてゐる。彼らはこの蒲団を、そして寝室を、さらに広大にするために働いてゐるのであらう。あのヒエロニモまで。彼はなぜ京や大坂や江戸の町へ異国の小間物を商ひに行くか。次兵衛は唐突な怒りのために狂乱した。

彼は直ちに着物をつけて四郎の部屋をたゝき、彼をよびだして、まだ明けきらぬ丘へ登つた。

「ヒエロニモよ。お前は大坂や京や江戸の町へ、商ひのために首途につく。だが、ヒエロニモよ。よく考へてみるがよい。お前はなぜ商ひにでかけるのか。そのわけが分つてゐるかね。お前はお金をもうけるためか。さうして、そのお金で何をするつもりだらうか。さア、わたしに考へを語つてきかせてごらん」

「お父さんやお母さんを安楽にさせてあげるためです」

「そのお金でか!」

「いゝえ、神父さま、私はお金のことばかり考へてゐるわけではありません。霊のたすかりのことを第一に忘れてはをりませぬ。また、慈善の心も忘れてはをりませぬ。