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アド・バルーン
アド・バルーン
織田 作之助
「新文学」1946(昭和21)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,390 字 · 53 页
来るだろうかという見出しで、また書きたてましたので、約束の日、私が田所さんたちといっしょに天王寺西門の鳥居の下へ行くと、おりから彼岸の中日のせいもあったが、鳥居の附近は黒山のような人だかりで、身動きもできぬくらいだった。私は新聞の記事にあおりたてられた物見高い人々が、五年目の再会の模様を見ようと、天王寺へお詣りがてら来ているのだと判ると、きゅうに自分のみすぼらしい――新聞に書かれた出世双六などという言葉におよそ似つかぬ姿を恥じて、穴あらばはいりたい気持とはこのことかと思った。しかし、まさか逃げだしもできず、それに秋山さんははたして来るだろうかと思えば自然光ってくる眼を、じっと西門の停留所の方へ向けていました。
秋山さんはやはり来た。雑鬧を押しわけてやってきた――その姿はよれよれの国民服で、風呂敷包を持っていました。「午後五時五十三分、天王寺西門の鳥居の真西に太陽が沈まんとする瞬間」と新聞はあとで書きましたが、十分過ぎでした。立ち話もそんな場所ではできず、前から部屋を頼んでおいた近くの逢坂町にある春風荘という精神道場へ行こうとすると、新聞の写真班が写真を撮るからちょっと待ってくれと言いました。