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アンゴウ
アンゴウ
「サロン別冊 特選小説集・第二輯」1948(昭和23)年5月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,249 字 · 23 页
僕は然し家内が本を持ちだしたことを言ってくれないものですから、そんな風にして蔵書の一部が残っているということを想像もできなかったのでした」
然し、こうして、矢島の蔵書が焼け残ったイワレが分ってみると、解せないことは、明に矢島の家のものであった本の中に、なぜタカ子の記した暗号があったかということであった。それをタカ子が出し忘れた、否、出し忘れるということは有り得ない、いったん書いてみたけれども、変更すべき事情が起って、別に書き改めた。そして先の一通を不覚にも置き忘れたと解すべきであろう。それにしても、神尾は死んだ。矢島の家は焼けた。家財のすべて焼失し、わずか十数冊残って盗まれた書物の中の、タカ子がたった一枚暗号のホゴを置き忘れた、秘密の唯一の手がかりを秘めた一冊だけが、幾多の経路をたどって矢島その人の手に戻るとは、なんたる天命であろうか。
神尾は死に、タカ子は失明し、秘密の主役たちはイノチを目を失っているというのに、たった一つ地上に承った秘密の爪の跡が劫火にも焼かれず、盗人の手をくゞり、遂にかくして秘密の唯一の解読者の手に帰せざるを得なかったとは! その一冊の本に、魔性めく執拗な意志がこもっているではないか。