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「インガ」

「インガ」

宮本 百合子

ソヴェト文学に現れた婦人の生活

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,443 字 · 29 页

青空文庫

第一酒を飲む。女房を擲る。手をあげて擲るのは自分の女房だけであるが、それはつまり彼のもっている女性観の雄弁な実践と云える。インガに対してだって、心服なぞはしていない。女の工場管理者に心服なんかするのは労働者の男の恥だ、そう思っているのであった。

夜、工場クラブで集会が終ったところだ。休憩室へみんながぞろぞろとあふれ出し、或る者は隅のテーブルで茶を飲みはじめる。それに混って、ボルティーコフも出て来た。彼はコレクティーブの秘書ソモフの踵へくっついて歩きながら頻りにぐずぐず云っている。

「よくねえよ、グリゴリイ・ダニールウィッチ! よくねえ! 女を前線に据えるなんざ……そういうなあ……ふむ、女ってものはそういうもんじゃねえんだ。」

ソモフは、出身から云えばボルティーコフと同じ労働者である。彼は、年こそ六十にもなっているが、インガの勤労者としての価値、及び解放された女がどうでなければならないかという一般の原理に対しては、いつも公平な立場で、社会的に理解し先進的な見解を失わない男である。

「――彼女がどうだっていうんだ? 仕事のやりかたを知らないってのかね? それとも――その全然人間じゃないってでも云うか?」