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オフェリヤごろし

オフェリヤ殺し

小栗 虫太郎

「改造」改造社、1935(昭和10)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,366 字 · 58 页

青空文庫

と、その下から、屍体が水面に浮き上って来るのだ。

そして、花の冠をつけた弥生の花薔薇は、そのまま脚光の蔭にある、切り穴から奈落に消えてしまうのであった。

所が、そうしてオフェリヤの屍体が舞台から消え去ったとき、何んともたとえようのない、驚くべき出来事が観客席に起った。

最初は桟敷の後方から、柱が揺れる――と叫ぶ声がしたかと思うと、その劇動が、この大建築を忽ち震い始め、ぎっしりと詰まった五千人の観客が、悲鳴を上げながら総立ちになった。

然し、その数瞬後には、また夢から醒めたような顔になって、一度はたしかに覚えた筈の震動が、不思議にもその瞬間限りで去ってしまったのに気が附いた。そして、再び視線を舞台に向けたとき、そこに、何事が起ったのであろうか。いきなり、金雀枝の幹にしがみついて、孔雀がつんざくような悲鳴を上げた。

見ると、驚いたことには、一端は消え去った筈のオフェリヤの屍体が、再び今度は、書割際の切り穴から現われて来た。彼女は、ジョン・ミレイズの「オフェリヤ」そのままの美しさで、キラキラ光る水面を、下手にかけて流れ行くのである。そして、前方の切り穴の上を越えて、上体を額縁の縁から乗り出し、あわや客席に墜落するかと思われたが、その時折よく、緞帳が下り切ったので、彼女は辛くも胸の当りで支えられた。