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オフェリヤごろし
オフェリヤ殺し
小栗 虫太郎
「改造」改造社、1935(昭和10)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,366 字 · 58 页
第一君は、刺されたのが奈落の中央だと云う事を、忘れているらしいね」
「そうなるかねえ」
法水は、嘲ら笑うような響きを罩めて云った。
「知っての通り、屍体の顔は至極平静な表情をしている。所が、奇妙な事には、眼球が非道く突き出ているんだ。そこに、あの奏楽所からでないと行えない、一つの徴候が含まれているんだよ。ねえ熊城君、幡江が一気に咽喉をかき切られた場所と云うのは、実を云うと、奈落の中央ではないのだ――その端にあったのだよ。つまり、舞台から奈落に落ち込んで行く間は、身体がくの字なりになり、胸が圧されて、非道く窮屈な姿勢だったに相違ない。所が、漸く半身が奈落に入ると、胸が寛やかになって、一時に溜り切った息を吐き出すだろうからね。そこへ、奏楽所の小窓から手が差し伸べられて、頸動脈も迷走神経も、幡江はともども、一文字に掻き切られてしまったのだよ。何故なら、縊死者の眼を見ても判る通りだが、激しい息を吐く際には、脳が膨張するので、眼球がそれに圧されて、突き出てしまうのだ。また、犀利な刃物を、非常な速力で加えた場合には、血管の断面が、一時は収縮するけれども、やがて内部の圧力が高まるにつれて、傷口からドクドクと吹き出て来るのだ。