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オフェリヤごろし

オフェリヤ殺し

小栗 虫太郎

「改造」改造社、1935(昭和10)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,366 字 · 58 页

青空文庫

ねえ法水様、北イタリー特有の南風が吹き出す頃になると、チロルの聯隊では、俄かに傷害沙汰が繁くなるとか申します。けれども、まったく土の肌、大気の香りと云うものには、事実、云うに云われぬ神秘な力があるものですわね。

で、いつのまにか私は、あの荒凉たる淋しさを、どうする事も出来なくなってしまいました。外面は、さぞ懆ぎおごっているように見えましたろうけれど、絶えず私は、体内に暴れ狂っている雨風を凝と見詰め、どうしたらいいか――それのみ考え続けて居りました。そうして遂に、私にとれば枷に等しい風間を葬って、あの懐かしい土を、再び蹈もうと決心致しました。

ですから、幡江さんを手にかけたのは、父のない私の、本能的な嫉妬なので御座います。父と娘――あの血縁の神秘は、それを欠いているものにとれば、寧ろ嘲けりに過ぎません。

どうか法水様、いつまでも私をお憶い出し下さいませ。そうして、その時はきっと、あの古びた街の幻影をお泛かべ下さいますよう……。