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オフェリヤごろし

オフェリヤ殺し

小栗 虫太郎

「改造」改造社、1935(昭和10)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,366 字 · 58 页

青空文庫

ところが、そこへ他の資本系列が加わるにつれて、九十郎の主張も、いつかは顧みられなくなってしまった。それではせめて、クルーゲルの沙翁舞台とも――と嘆願したのであったが、それさえ一蹴されて、ついにその劇場は、バイロイト歌劇座そっくりな姿を現わすに至った。

もちろん舞台の額縁は、オペラ風のただ広いものとなった。また、その下には、隠伏奏楽所さえ設けられて、観客席も、列柱に囲まれた地紙形の桟敷になってしまった。これでは、如何にしようとて、沙翁劇が完全に演出されよう道理はない。九十郎は一切の希望が、その瞬間に絶たれてしまったのを知った。

しかも、それと同時に、彼を悲憤の鬼と化してしまうような、出来事が起った。と云うのは、一座が九十郎を捨てて、一人残らず劇場側に走ってしまったからである。

恐らくその俸給の額は、絶えず生計の不安に怯え続け、安定を得ない座員の眼を、眩ますに充分なものだったであろう。わけても、妻の暁子から娘の幡江、孔雀までが彼を見捨てたのであるから、ついに九十郎は、一夜離反者を前にして、激越極まる告別の辞を吐いた。そして、その足で、何処ともなく姿を晦ましてしまった――と云うのが、恰度二月ほどまえ、三月十七日の夜のことだったのである。