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カメラのしょうてん

カメラの焦点

宮本 百合子

「作品」1937(昭和12)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,143 字 · 5 页

青空文庫

アメリカやドイツへ行くと、レンズがよいのが魅力で税のかからぬところで誰でも買おうと思うのだろう。

モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)で、私の暮したホテルはパッサージという名で、今ゴーリキイ通となった大通りにあった。冬の凍った三重窓に青く月の光がさして、夜の十二時にクレムリから大時計の音楽の一くさりが響いて来た。窓の前は、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)夕刊新聞の屋上で、クラブになっていた。着いた年の冬は、硝子張りの屋根が破れたまま鉄骨がむき出しになっていた。雪がそこから降る。春の北国の重い雪解水がそこから滴っている。荒々しい淋しい心のひきむしられる眺めであった。二年後に、その屋根はすっかりガラスが嵌めこまれて新しいものになった。ライラック色のルバシカに金髪を輝やかした青年と、黒い上着を着て白っぽいハンティングをかぶったもう一人の青年とが、或る日その屋上へ出て来て愉快そうに談笑しながら、小さいカメラを出して互に互の写真をとりあっている。こっちの窓から其光景を遠く眺めやっている私の胸に、抑えがたい欣びがあるのであった。

ピオニェールたちの間にも段々写真が普及しはじめた頃、私はかえって来たのであった。