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ガルスワーシーのいえ

ガルスワーシーの家

岡本 かの子

「行動」1934(昭和9)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,123 字 · 18 页

青空文庫

老夫人は特に客に此の結論に注意せよといったふうに、「その通り」と相槌をうった。

話が余りにまとまりよく、そして鮮かに引き結ばれたので、その後に残った却って興味索然とした空白が四ツの顔をただまじまじさせた。

景子は切上げ時だと思って催促の眼ざしを宮坂の横顔に向けた。宮坂は度の強い近視眼鏡の奥で睫毛の疎い眼を学徒らしく瞑目していた。それが景子には老文豪の話を頭で反芻して居るらしく見えた。暫らくそうさしといて、やがて景子が口に出して声をかけようとする時、宮坂は眼をポックリ開いて、さも決心したらしい顔付きで言った。

――恐れ入りますが、先生の手の筋を拝見さして頂き度いのですが………記念の為めに」

余り宮坂の唐突な言葉に景子もやや呆れた。ガルスワーシーはなお受取り兼ね二三度反問したが結局どうやら宮坂の希望の目的が判ったので笑いながら大きな手を宮坂の前に差出した。

――さあ、よく見て頂きましょう。多分神秘な運命が筋に現れている筈です」

そう言って彼は笑った。夫人も浮腰になり今更のように長年苦労を共にして来た夫の老いた掌を覗いた。そして此の尊敬すべきか、軽蔑すべきかを決しかねた日本人に対する態度を仔細に視まもった。