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キャラコさん

キャラコさん

久生 十蘭

03 蘆と木笛

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,236 字 · 43 页

青空文庫

それから、三十分ほどすると、疏水の向う側から佐伯氏がやって来た。

木笛のあるあたりに顔を向けて、ぼんやりと立っていたが、ツと手を伸ばして手紙をほどきとるとむこうを向いて、立ったままでそれを読み出した。

しばらくののち、手紙を持った手がだらりと下へ垂れる。それから、左手をいそいで眼のほうへ持って行った。

佐伯氏は、こちらへ背中を向けたままいつまでも立っている。佐伯氏の手の中で、キャラコさんの手紙がヒラヒラと風にひるがえっていた。

五

次の朝、廊下の窓のそばの籐椅子に掛けて本を読んでいると、廊下の向うのはしから茜さんがひどくまっすぐな姿勢でこちらへちかづいて来た。

ウールのレーンコートを着て、腕に外套をひっかけている。瘠せているので、ほんとうの身丈よりずっと長身に見える。面ざしは冷たすぎるほど端正で、象牙のような冴えかえった色をしていた。

廿二三だと思われるのに、どこか、ひどく老けたところがあって、娘がいきなり大人になったような妙な感じをあたえる。

すらりと、キャラコさんのそばに立って、

「いいお天気ね。発動機艇で箱根町のほうへ出かけてみません? すこし、お話したいこともあるのよ」