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キャラコさん

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久生 十蘭

02 雪の山小屋

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,012 字 · 48 页

青空文庫

夢からさめると、詩人の芳衛さんが、その紳士に、『チャーミング・プリンス』と名をつけた。みな、心からこの命名に賛成した。

その紳士は、午後になると、きまって志賀ヒュッテの方へ出かけてゆくことがわかったので、そうそうに昼飯をすませると、みな胸をワクワクさせながら見物に出かけるのが毎日の仕事になった。うまく紳士に出っくわして、目礼されたり、短い挨拶をされたりすると、あわてふためいて、すべったり転んだりして大騒ぎになる。そして、夜になると、『ロッキーに春がくれば』を合唱しては、涙ぐむのだった。

ところで、今日、そのうっとりするような紳士をこの山小屋のお茶に招待するところまでこぎつけたというのである。

チビの鮎子さんが、皆に押し出されて、紳士の前まではって行った。ピョコンとひとつお辞儀をすると、

「あたしたちのところへ、明日、お茶に来て、ちょうだい」

と、いった。

チャーミングさんは、なんともいいようのない美しい微笑をうかべながら、たいへんに慇懃な口調で、お招きにあずかって有難い、といった。

鮎子さんは、紳士があまり丁寧なので、面くらってひっくりかえりかけ、あぶなく紳士に抱きつくところだった……。