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ケーテ・コルヴィッツのがぎょう
ケーテ・コルヴィッツの画業
宮本 百合子
「アトリエ」1941(昭和16)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,607 字 · 22 页
けれど、いよいよこの期待すべき娘が、若い医師コルヴィッツと結婚するときまったとき、ひとつの忠言を与えた。それは妻となり母となるためには絵を捨てよ、という言葉であった。ケーテはその父の忠言に対して何と答えたのであったろうか。それは伝えられていない。けれども、その時ケーテの心には日頃「才能というものは一つの義務である」という叡智のこもったいいあらわし方で、くりかえし語っていたお祖父さんユリウス・ループの言葉が、最も親切な力として甦って来たのではなかったろうか。「才能というものは一つの義務である」。才能というものが与えられてあるならば、それは自分のものであって、しかも私のものではない。それを発展させ、開花させ人類のよろこびのために負うている一つの義務として、個人の才能を理解したループ祖父さんの雄勁な気魄は、その言葉でケーテを旧来の家庭婦人としての習俗の圧力から護ったばかりでなく、気力そのものとして孫娘につたえた。多難で煩雑な女の生活の現実の間で、祖父の箴言は常にケーテの勇気の源泉となったように思える。
事実、ケーテ・シュミットはケーテ・コルヴィッツとなっても画業は決して棄てなかった。