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ゴルフずいこうき

ゴルフ随行記

寺田 寅彦

「専売協会誌」1934(昭和9)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,490 字 · 7 页

青空文庫

休憩室の土間の壁面にメンバーの名札がずらりと並んでいる。ハンディキャップの数で等級別に並べてあるそうだが、やはり上手な人の数が少なくて、上手でない人の数が多いから不思議である。黒板に競技の得点表のようなものが書いてある。一等から十等まで賞が出ている。これなら楽しみが多いことであろう。賞品は次の日曜日に渡しますとある。人間いくら年をとっても時には子供時代の喜びを復活させる希望を捨てなくてもいいのである。

M夫人が到着したのでそろそろ出掛ける。

一体の地面よりは一段高い芝生の上に小さな猪口の底を抜いて俯伏せにしたような円錐形の台を置いて、その上にあの白い綺麗なボールを載せておいて、それをあのクラブの頭でひっぱたくと一種独特の愉快な音がする。飛んで行った球がもう下り始めるかと思う頃に却ってのし上がって行ってそれから落ちることがある。夫人の球が時々途中から右の方へカーヴを描く。球がそれて土手の斜面に落ちると罰金だそうである。

河畔の蘆の中でしきりに葭切が鳴いている。草原には矮小な夾竹桃がただ一輪真赤に咲いている。綺麗に刈りならした芝生の中に立って正に打出されようとする白い球を凝視していると芝生全体が自分をのせて空中に泛んでいるような気がしてくる。