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ゴールデン・バットじけん
ゴールデン・バット事件
海野 十三
「新青年」1933(昭和8)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,946 字 · 46 页
と私に言った。
「えッ」
「ちょっと話があるのよオ」
私は顔が赭くなった。私の眼の前には、チェリーの真白なムチムチ肥えた露わな二の腕が、それ自身一つの生物のように蠢動していた。
「いいから、行ってこいよ」帆村は云った。
「じゃ、ちょっと――」
私は心臓をはずませて、席を立った。彼女の悩ましい体臭の影にぴったりとついて行くと、チェリーは楽手のいないピアノの側へつれていった。
「用て、なんだい」私は訊いた。
「解ってるでしょう――」そういうチェリーの顔には、何となく険悪な気がみなぎっているのを発見した。
「あんた、早く返さないと悪いわよ」
彼女は私の思いがけないことを云った。
「早く返せ。な、なにをだい?」
「白っぱくれるなんて、男らしくないわよ」
「なッなんだって?」
「こうなりゃハッキリ云ったげるわよ。――あんた先に丘田さんのところで、盗んでいったものがあるでしょう」
「なにを云うんだ」私は駭きと怒りとで思わず大声になった。
「ほら、やましいから、赤くなったじゃないの。悪いことは云わないから、これから直ぐ帰って、あの薬をあたしンところへ持っていらっしゃい。いいこと。あたしから丘田さんにうまく謝って置いてあげますからネ」