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ジイドとそのソヴェトりょこうき

ジイドとそのソヴェト旅行記

宮本 百合子

「文芸春秋」1937(昭和12)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,615 字 · 19 页

青空文庫

彼に「地の糧」を書かしめたアルジェリイにおける生産力の横溢と転身の自覚。彼に「パリュウド」をかかしめた、パリ帰来後の孤愁と象徴派との別離。結婚生活の重荷が反映している「背徳者」、それから六年間も間をとんで執筆された「狭き門」、三十歳のジイドの苦悩は、日夜自分の極めて知識人風な内的生活の探求の裡に棲んで、「汝は何ものかに役立たんと欲している」。だが、自分が役立ちたいのは何もののためであるか、それがはっきり掴めない焦燥と不安とであった。

作家としてのジイドを三十年間押し動かして来たものは、当時そうであったように現在も只管に真実ならんと欲する情熱である。彼が自身の存在全体に求めるのは、純粋の誠実さである。彼は主観の裡に燃えるこの情熱によって、フランス中産階級の生活に瀰漫している因習と闘い、自分が自分である権利を主張して来た。習慣と惰力とが引っぱって来ているしきたり、俗的真理に対置するものとして自分の真理を主張した。真実の自分とは違う自分の肖像が押しつけられそうになると、ジイドは、たといその偽の肖像の方が世間的に有利で通りがよかろうとも、自分から自分を曝露して、自己に真実であろうとした。