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ジャンのものがたり

ジャンの物語

宮本 百合子

「婦人公論」1937(昭和12)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,273 字 · 13 页

青空文庫

フランスの『マリアンヌ』という新聞に、ロシアの大文豪であったレフ・トルストイの孫息子にあたるジャンという少年が、浮浪児として少年感化院に入れられ、そこから脱走して再び警察の手にとらわれたときかいた「ジャンの手記」というものを発表した。

トルストイには何人かの息子がいたが、父親が人間の歴史にのこした強大な足跡をうけてそれを発展させてゆくような人は一人も出なかった。ジャンの父であるひとも、その息子たちのうちの不仕合わせな一人であるらしい。

有名なひとの孫がパリでそのような生活に陥っているということに対して、私たちの心が動かされるとしたら、それは俗っぽく名家二代なしの証拠をそこに見るためではないと思う。トルストイという極めて強烈な生命力を発散させて生涯を終った一つの人間性が周囲に投げた波紋や、それから後急激に移り進んだロシアの歴史の変遷、それに対する貴族としてのトルストイ家の人々の動きかた、あらゆる複雑な世紀と人生の波濤をそこに感じるからであろうと思う。

今日私たちのところには「チボー家の人々」が訳されており、その主人公のジャックの一時期の境遇を描いた「灰色の手帖」