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ジロリのおんな

ジロリの女

坂口 安吾

前半「文藝春秋 第二六巻第四号」1948(昭和23)年4月1日、後半「別冊文藝春秋 第六輯」1948(昭和23)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,597 字 · 102 页

青空文庫

ヤス子は恐怖と驚愕にすくんだが、今にも私めがけて飛びつこうとするときに、私はガックリのめってしまった。

「三船さん、バカ、バカ」

私を抱き起そうとしたが、にわかに私の耳に口を当てて、

「シッカリして。今、医者をよびます。そんな、そんな、子供じみたことを」

私は顔をあげた。同時に、からだを起した。私は無言、呆気にとられるヤス子を見つめ、そして、ヤス子の手を静かにとって、ゆっくりと甲に接吻した。

「ヤス子さん。ごめんなさい。死ぬマネをしてみたのですよ。でも、ちょッと、死んだような気もしましたよ。ゴムフーセンに入れた赤インキですよ」

ヤス子は思いのこもった鋭い視線で私を睨んでいたが、私は平然たるものである。

「ヤス子さん、事の結果が、あなたをバカにしているようですが、そんな気持じゃないのです。私は私のバカさ加減をお目にかけるつもりだったのです。私は軽蔑されようと思ったのです。その意味を御存知ですか。私の一生はピエロなんです。私はそれをハッキリ自覚しているのです。それは世間にはピエロを自認するニヒリストは有り余るほどおりますよ。然し、彼らがピエロでしょうか。ウソですよ。