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スウィスにっき

スウィス日記

辻村 伊助

辻村伊助『スウィス日記』。同一底本的分册已合并为一书。收入:スウィス日記、続スウィス日記(千九百二十三年稿)。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 216,275 字 · 410 页

青空文庫

はて、何をしているんだろう、誰かクレヴァースへ落ちたのか知らん、声をかけたものか……それとも……耳がかっと鳴って、頭は火のように熱い、そして襟から背筋へかけて、氷でも注がれたようにぞくぞく寒気がする、考えながら見なおすと、どうも耳こすりでもしているのか、どれとは無しに動くらしい。

いまにふり向くか、どうも何か捜しているらしい様子だが、誰か落ちたに違いない、気になって気になってたまらないから、身体の怪我も忘れて、ふらふらと二足三足、歩いては立ち止り、見なおしては又ひと足、とうとう雪の小山の上まで来た。

もうとうに暗くなっていたと見えて、衣物の色は灰色の氷と見わけもつかないが、寛やかなガウンかシュミースばかりでいるらしく、ことによると尼達ではないかとも思われる。その中でもクレヴァースに、指の爪をひっかけて、覗き込んでる女が、いかにも薄気味わるく思われた。

フィルンを廻って崖を下りれば、下はすぐアイスメーヤの氷河である、アイスメーヤの氷の上だ、確かにクレヴァースの上だ、あすこが人間の居るところか、しかも女ばかりで此の日暮れに、思うとたんに総身に冷水を浴びたように飛び上って、ぶるぶるっと身ぶるいして棒のようにつっ立った。