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スウィスにっき
スウィス日記
辻村 伊助
辻村伊助『スウィス日記』。同一底本的分册已合并为一书。收入:スウィス日記、続スウィス日記(千九百二十三年稿)。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 216,275 字 · 410 页
である。
さて翌けの日、山村の日曜を想像して見たまえ。眠っているような小村の靄に、鳴りわたる会堂の鐘の音、アルヴの水も夢からさめたか、雪をもれて、かすかにそれとうなずかれる朝まだき。あすこに、この雪の下に、彼のウィムパーが眠っていると、朝飯もそこそこに、杖一つぶら下げた身軽にぶらり、その鐘の鳴る方へ雪路を分けてゆく、教会は停車場前、私の室のヴェランダからは、斜めに見える尖塔がそれで、墓は雪の中ながら、誰のわざかしおらしい花束も、雪をかずいて美しかった。どんよりと曇り日の空には、そこここと晴れ晴しい朝空が仰がれたが、山は深い雲の中で、只ほの白い渓の中に、鐘のねばかり鳴りわたる。朝空の雲の窓は、その鐘にさそわれて、南に動き西に揺れて、ある時は、その陰欝な扉の奥に、ああボッソンの蒼白い氷河をさえ仰ぐことができた! ただ思いがけない雲の真中に、これが私の初めて見た氷河であった。
たまらなくなって、深い雪の中をあたふたと、たとえば一尺でも山に近づこうとするように、ホテルの前は素通りにして、アルヴの橋を、水には眼をくれる暇もなく、つき当りを左に曲ってボッソンの方へかけつけた。