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ズラかったしんきち

ズラかった信吉

宮本 百合子

「改造」1931(昭和6)年7~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,656 字 · 110 页

青空文庫

まじり気ない、灼きつく歓喜の拍手に送られて、オーリャは信吉が突立っている隅へ引こんで来た。

オーリャは信吉がそこにいることに気づかない。然し、信吉は見た。オーリャの細そりした、力のある指がハンケチをからめて顔の汗を拭きながら亢奮のために微に震えているのを。

五

三十分はとっくに経ってる。

が、第三交代の連中がユサリともしないばかりか、今は第二交代のものたちも所持品置場の窓の外にまでたかって聞いている。

分ったり、分らないだりするいろんな言葉。拍手。鋭い口笛の混った笑声。あっち、こっちへ揉まれながら、信吉はだんだん隠しきれないおどろきを汗かいた顔に表わした。

次から次へドシドシ不平は不平としてブチまけさせながら、而も気がついて見るといつの間にやらその不平さえそっくりそのまま、大衆がよろこんで消費組合監督突撃隊を支持するような方向に、向けられて行ってるんだ。

特別ヤーシャ一人が凄腕なわけでもない。オーリャだけがうけたからというわけでもないらしい。赧っ毛のボリスが一こと云う。次の機会に眇目になりかけのノーソフが少し喋る。ポツリ、ポツリ、職長、党員のペトロフが目立たない言葉を挾んだ。