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ズラかったしんきち
ズラかった信吉
宮本 百合子
「改造」1931(昭和6)年7~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,656 字 · 110 页
テーブルへ腰かけて、のぞきこんでる者もある。
「何ごとだい?」
信吉なんだ。本雇んなって三日目の信吉が、弁当つかってたら偶然みんながいろんな質問をはじめて、こんなにかたまっちゃったんだ。
水色と黒のダンダラ縞の運動シャツを着た若いのが、信吉のとなりで頻りに本をよみながら、ソーセージとパンをくってた。何心なく見ると、その本には機械の図解があって、むずかしそうな方程式が書いてある。
……職工でこれがわかるんだろか……。なお眺めていたら、その若いのがヒョイと顔をあげて、信吉を見た。毛色の違いにすぐ気がついた風だ。両方ともちょっとバツがわるいように見あったが、運動シャツの方が、
「お前ここに働いてるのか?」
と口をきった。
「ああ」
信吉は、本を指さした。
「それ、わかるのかい? お前に」
「これか?」
却って質問が合点いかないように運動シャツは本を持ちあげて信吉の顔を見ていたが、
「ああ、お前今度第三交代で入って来たんだろ」
と云った。
「俺は実習生なんだよ、工業学校からの……お前旋盤か?」
それから、その実習生がきき出した。日本に共産党があるか? 労働者の賃銀はどの位だ? そこへ、別のテーブルの連中もそろそろやって来た。