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ズラかったしんきち

ズラかった信吉

宮本 百合子

「改造」1931(昭和6)年7~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,656 字 · 110 页

青空文庫

だが、村を出るに贅沢云っちゃいられない。

親分のハゲ小林という半ズボンに引率されて、アルハラの現場小舎へ着いたら、山また山の黒っぽい樅の葉にサラサラロシアの粉雪が降りだした。

日本人が事務員を入れて三十人足らず。ほかにロシア人の労働者が五六十人稼ぎに来ている。日本人は日本人のバラック、ロシア人はロシア人のバラックと、山の斜面に四棟の小舎が建っていた。

根元へ斧を入れられた樹は先ず頭から振れ出し、細かい雪煙をたてて四辺の下枝を折りながら倒れる。それにたかって枝をおろす。それから雪の上、林の間を馬に引っぱらせてアムグーン川の上流まで運び出す。

そこでは日本人夫の経験のあるのが、材木をドシドシ氷結したアムグーン川へころがし込んだ。春、解氷期になると、ロシアじゅうの川は気ぜわしく泡立ちながら氾濫する。今こうやって氷の上へぶちこまれている材木は、アムグーン川の氷がとけて水嵩がますと一緒に、河口までひとりでに押し出されるという寸法だ。

人夫募集広告には、日魯林業株式会社直営現場となっていた。が、それは表面上のことで、内実は伐り出しから船渡しまでがいくらと、親分の請負だ。