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ズラかったしんきち

ズラかった信吉

宮本 百合子

「改造」1931(昭和6)年7~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,656 字 · 110 页

青空文庫

「……こりゃ今朝はひでえぞウ……かけてる布団の襟がバリバリだあ」

すると、二重硝子をはめた窓下に寝ていたのが、つづいて頓狂に叫んだ。

「ヤッ、こりゃえげねえ! もちっと知らずと寝てたら、ハアそれなりオダブツだぞウ」

いつの間にか細かい雪が窓から入って来て、夜具の裾へ手で掬うほど吹きだまりをこしらえていた。

みんな、厚いメリヤス・シャツのまんま寝る。信吉はその上へジャケツを着こみながら、窓んところへ額をおっつけて戸外を見た。何とも云えぬ艶をもって壮厳な碧黒い空が枝という枝の端まで真白く氷花に覆われた林の間から重く見える。

「ほんとに凍みらあ」

信吉は、起きぬけの素足の指を布団の上で海老にした。

ひどく凍ると空気は板みたいに強ばって、うまく吸いこめるもんじゃない。飯場へ行くまでにも髭は白くなるし、頬っぺたや口のまわりが針束で刺されるように痛んだ。

ガヤガヤ云って汁かけ飯を食ってると、信吉なんか口も利いたことない若いのが、防寒帽をかぶって外から飛びこんで来るなり、

「おーい、二十七度だぞウ!」

と怒鳴った。

「ほんとけ?」

嬉しそうな声がした。

「そうはなるめえ、こんでも……」