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ゼーロン
ゼーロン
牧野 信一
「改造」1931(昭和6)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,533 字 · 29 页
彼は、一発の下に点火しない煙草は、不吉と称して悉く踏みにじってしまうのである。彼は、それでその日の運命を自ら占うのだという御幣をかついでいる。だから最初の一発がうまく点火すると彼は非常な好機嫌となるが、手もとが狂いはじめたとなると制限がなくなる。ガミガミと途方もなく苛立って続けざまに発砲するのだが、癇癪を起せば起すほど腕が震えて埒があかず、終いには人畜を害ねなければ溜飲が下らなくなってしまうという始末の悪い迷信的潔癖性に富んでいた。
未だそれと判明したわけではなかったが、なおも頻りに鳴りつづけている「ライタアの音」に注意を向けると私は脚がすくみそうになった。余裕さえあればここで私は、彼の発火管が種切れになっていつものように彼がふて寝をしてしまうであろう頃合を待って、森に踏み入るのであったが、容易に発砲の音は絶えなかった。この上ここらでまごまごしていれば村の連中に捕縛される恐れがあるばかりでなく、最も怖ろしい夕暮に迫られる危険がある。――彼は人畜に重傷を負わせる程獰猛ではないが、奇妙な狙いをもって、その身近くの空気を打って、逃げまどう標的の狼狽する有様を見物するのが道楽である。