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ゼーロン
ゼーロン
牧野 信一
「改造」1931(昭和6)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,533 字 · 29 页
これでも思い出せぬと云うならば、そうだ、ではあの頃の歌を歌おうよ。僕が、この Ballad を歌うとお前は歌の緩急の度に合わせて、速くも緩やかにも自由に脚竝みをそろえたではないか。」
杯に触れなば思い起せよ、かつて、そは、King Hiero の宴にて、森蔭深き城砦の、いと古びたる円卓子に、将士あまた招かれにし――私は、悲しみを怺えて爽快げな見得を切りながら古い自作の「新キャンタベリイ」と題する Ballad を、六脚韻を踏んだアイオン調で朗吟しはじめたが一向利目がなかった。
「五月の朝まだきに、一片の花やかなる雲を追って、この愚かなアルキメデスの後輩にユレーカ! を叫ばしめたお前は、僕のペガサスではなかったか! 全能の愛のために、意志の上に作用する善美のために、苦悶の陶酔の裡に真理の花を探し索めんがために、エピクテート学校の体育場へ馳せ参ずるストア学生の、お前は勇敢なロシナンテではなかったか!」
私は鞍を叩きながら、将士皆な盃と剣を挙げて王に誓いたり、吾こそ王の冠の、失われたる宝石を……と、歌い続けて拳を振り廻したが頑強な驢馬はビクともしなかった。