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チェーホフしろん

チェーホフ試論

神西 清

――チェーホフ序説の一部として――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,618 字 · 41 页

青空文庫

彼女は転地先で三日もたたぬうちに死ぬ。この物語から容易に思い出されるのは『イオーヌィチ』という晩年の作品である。勿論『イオーヌィチ』には前者に見られない凝縮と重厚味があるが、この二つの作品は人物のシチュエーションも同じなら、作を支配する暗い気分も同じであって、結局『イオーヌィチ』は『おくれた花』の改作といってもいいのである。して見れば、二十二歳のチェーホンテは、三十八歳のチェーホフの作品をすでに書いたということになる。

チェーホフは果して『イ※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)ーノフ』を転機に、チェーホンテの笑いを失ったか?

『手帖』は一八九二年から死の年に至るあいだの彼の覚え書の類を集めたものだが、その中にはヴォードヴィルの腹案や、その登場人物のための滑稽な作り名の考案が、殆ど一頁おきに出てくる。この『手帖』にも彼の日常の言動と同じく、快活と憂鬱の間断ない交替が見られる。作品を眺めても事情は殆ど変らない。笑劇『熊』は一八八八年の作だし、おなじく『結婚申込』もその年の作、『厭々ながらの悲劇役者』はその翌年の作だ。ずっと晩年に及んだ、『結婚披露』『記念祭』