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チャンス

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太宰 治

「芸術」1946(昭和21)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,361 字 · 17 页

青空文庫

頭の中の味噌はまた素敵においしいという事になっていた。甚だ野蛮な事には違いないが、その独特の味覚の魅力に打ち勝つ事が出来ず、私なども子供の頃には、やはりこの寒雀を追いまわしたものだ。

お篠さんが紋附の長い裾をひきずって、そのお料理のお膳を捧げて部屋へはいって来て、(すらりとしたからだつきで、細面の古風な美人型のひとであった。としは、二十二、三くらいであったろうか。あとで聞いた事だが、その弘前の或る有力者のお妾で、まあ、当時は一流のねえさんであったようである)そうして、私のあたっている炬燵の上に置いた瞬間、既に私はそのお膳の一隅に雀焼きを発見し、や、寒雀! と内心ひそかに狂喜したのである。たべたかった。しかし、私はかなりの見栄坊であった。紋附を着た美しい芸者三人に取りまかれて、ばりばりと寒雀を骨ごと噛みくだいて見せる勇気は無かった。ああ、あの頭の中の味噌はどんなにかおいしいだろう。思えば、寒雀もずいぶんしばらく食べなかったな、と悶えても、猛然とそれを頬張る蛮勇は無いのである。私は仕方なく銀杏の実を爪楊枝でつついて食べたりしていた。しかし、どうしても、あきらめ切れない。