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デスデモーナのハンカチーフ
デスデモーナのハンカチーフ
宮本 百合子
「女靴の跡」高島屋出版部、1948(昭和23)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,425 字 · 5 页
その二人の間に、オセロの愛のしるしとして一枚のきれいなハンカチーフが存在する。イヤゴーはオセロとデスデモーナの白と黒との異国的な調和の美が完成されたまますぎてゆくことに、焦だった刺戟を感じる。人間の苦しみ、まどいする姿を、いま幸福なこの夫婦の上に現出して、そこを眺めたのしみたくなって来る。デスデモーナのハンカチーフは、イヤゴーのその詭計の媒介物としてつかわれた。オセロの嫉妬をかきたてるために罪ふかい一枚の布きれとして利用される。デスデモーナはそのハンカチーフをぬすまれ、しかもそれを男にやったように、イヤゴーに仕組まれた。
デスデモーナが、ハンカチーフのなくなったことを心づいてからの心配は、はためにいじらしい限りである。このハンカチーフは、お互のまことのしるしとしてあげるのだからなくさないように、とオセロに云いわたされた、そのハンカチーフがなくなってしまった。デスデモーナは、閃くようにオセロの憤りを思った。その思いは、何事もないとき、甘美に耳を傾けていた良人たるオセロの武勇のつよさを連想させ、そこに自分に向ってぬかれる剣を感じ、デスデモーナは、愛と恐怖に分別を失った。