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トコヨゴヨミ
トコヨゴヨミ
田山 花袋
「早稲田文学」1914(大正3)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,449 字 · 38 页
こういうところに住んでいる人達は何れほど仕合せだか。」勇吉の妻はこんなことを思って、雪一つない地上に草や木の青々と生えているのをめずらしそうに見た。
「暖かいこと。」
こう勇吉に言って見たりした。
賑かな大きな目も覚めるような停車場――幸いにも其処には予め手紙をやって今日の到着を知らせて置いた遠い親類の男が迎いに来ていて呉れた。荷物と一緒に自分と女の兒だけ車に乗せられて、借りて置いて呉れた裏店のような三軒つづきの狭い家にやがて皆なは落附くことになった。それは擂鉢の底のようになっている処で、ちょっとの隙間もなく家が一面に建て込んであった。
「何て家の多い処だか――私吃驚した。」こんなことを勇吉の妻は言った。
三畳に六畳、床の間もないような小さな家であった。それでも彼方の寒い掘立小屋よりはいくら増しだか知れないと妻は思った。新しい柄杓、新しい桶、瀬戸で出来た釜、鍋、薬罐、そういうものをやがて親類の男は買って来て呉れた。その男は勇吉の母方の従弟で、近所の工場に勤めているような人であった。妻はあの荒蕪地の中からこういう処に急にやって来たのを不思議に思わずにはいられなかった。