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ドミノのおつげ
ドミノのお告げ
久坂 葉子
「VIKING 17号」1950(昭和25)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,713 字 · 42 页
長い廊下をつきあたるとすぐその端の部屋が兄の病室でありました。庭に咲いた菊を五六本、新聞紙に包んだのを私は持っております。ノックをすると低い返事がありました。
「おはようございます。いかが、御気分は」
「やあ」
兄は上半身を起して私の方を見ました。
「きれいな菊、中庭のかい」
「ええそう、香りはあまりないけれど」
私はコスモスが枯れたままつっこんであるペルシャの青い壺にその菊を活けました。白いはなびらときいろい芯とがこの青い壺にはよくうつります。柔い丸い壺の肌を、兄はたいへん好んでいて、売れば随分の価になるものでしたけれど兄のためにおいてあるのでした。
「兄様、父様に輸血をしたの」
「父様ずいぶんおわるいの」
「そんなでもないのよ。いつもの如くなの。雪子の血、五百円也よ……ふふ」
私は白いお皿を思い出して笑いました。
「五百円って?」
「売ったのよ、血を……」
「え、お前が、父様に? そして五百円もらったの?」
「いけない? 雪子、それみんな使ったわ。今度ん時は、兄様モーツアルトのレコード買ったげるわね」
「親子じゃないか、しようのないひとだ」
話はとぎれます。私はサウンドボックスのふたをあけて、兄の好きなというより、もう心酔してそれより外のことは考えられなくなっているモーツアルトのレコードをかけ出しました。