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ドーヴィルものがたり
ドーヴィル物語
岡本 かの子
「経済往来」1933(昭和8)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,723 字 · 44 页
――米のビスケット……………ふふふ……大変、旨い。
彼女の行儀わるく踏みはだけた棒の様な両脚に、商売女の素気無さが露骨に現われて居たが、さすがに無雑作に物を喰べて口紅をよごさない用心が小田島に少し可哀相に思えた。カキモチも宜い加減喰べると
――フランスの女はね。自殺する間際まで喰べものの事を考えて居るのよ。男には失恋しても喰物には絶対に失恋し度くないのよ。
女はこんな訳の分らぬことを云ってますます憐っぽくしおれかかる。
――わたし今夜ご飯喰べられないのよ。あんた晩ご飯おごってよ。あたし払いが出来なくなって、おっ払われたんだから独じゃこのホテルの食堂へは入れないのよ。
小田島は絶体絶命という気がした。
――じゃ、まあ、僕と一緒に来給え。
すると女は急にあたりまえだという顔をしてずんずん先に立って食堂へは入って来て仕舞ったのだ。
女は座席に即くと悠々小田島のシガレットケースから煙草を抽き出してふかし始めた。そして胡散臭そうに女を見乍ら誂を聞く給仕男へ横柄に、
――ちょいと。何かぱっと眼の覚めるようなものを持ってお出で、コニャックでも。それから鵞鳥の脂肪を少し余計持っといで。