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ドーヴィルものがたり

ドーヴィル物語

岡本 かの子

「経済往来」1933(昭和8)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,723 字 · 44 页

青空文庫

と云ってカマをかけて訊くようなえごいことは仕度く無い女だ。小田島は思い切って聞いた。

――君はこの土地へ、探偵に来たのだろう。

――ふふん、それが何う仕たというの。

イベットは少しぎょっとしたが、子供らしくとぼけ、胸を反らして小田島に逆らう様な恰好をした――その時、太陽が直射した。そして額や頬に初秋の海風が一しきり流れると彼女は急に崩折れた。

――腕を借してよ、小田島。私に縋らしてよ、こんな商売、私、随分、寂しいのよ。

イベットは両手で小田島の腕を握り、毛織物を通して感じられる日本人独特の筋肉が円く盛上った上膊に顳を宛がった。そして何か強い精気あるものに溶け込み度い思いで一ぱいになって居るように彼女は静に眼を半分閉じるのだった。かもめの落す影が二つ彼女の長い睫を軽く瞬かせる。

この料理店自慢の鳥に詰物をした料理を給仕男が持って来たが、こういう卓上風景には馴れて居るので音を立てぬようにそっと行って仕舞った。

子供が乳房を吸って仕舞ったあとのようなぽかんとした顔をして、イベットはやがて男の腕から顔を上げた。

――あなた、カジノの賭博から、フランス政府はいくら取上げるのだと思って?