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バルザックについてのノート

バルザックについてのノート

宮本 百合子

「歌声よ、おこれ」解放社、1947(昭和22)年8月発行

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,421 字 · 9 页

青空文庫

何故なら、二十世紀後半の文学は、益々人間の集団と集団の関係を真実のテーマとする必然にあるから。

散文

バルザックの散文は強壮である。「幻滅」などの傑作においてはことにそれが感じられる。生活力があふれ、人生の現実に充ち各行が何かを語り、紛糾の深味が次々へと、新鮮な炭酸水のように活気横溢してみなぎっている。

ヨーロッパ文学においてもバルザックの散文の強壮さは失われた。大戦後は散文は神経腺のようなものになり、さもなければ破産的なものに細分された。

アランの散文に対する誤った理解はよくそれを語っている。

日本の近代文学において、散文はどんな伝統に立っているだろうか。

そういう見地から見ると、漱石の散文は秋声の「あらくれ」「黴」などからみるとずっと、弱い。志賀直哉の散文はよくやかれた瓦できっちりとふかれた屋根屋根の起伏の美しき眺望のように見るものの心にうつるたしかさをもっている。が、生活の中からせり出して来る生々しい建造物の規模はもっていない。

散文家として比較すれば、鴎外の方が漱石より雄勁である。漱石のよわさは、しかし彼の稟性の低さに由来するものではない。