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バルザックのねまきすがた

バルザックの寝巻姿

吉行 エイスケ

小野クララの筆名で「文芸春秋」昭和4年10月号に掲載。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,606 字 · 27 页

青空文庫

その花子の顔こそアウギュスト・ロダンの刻んだ「小さい花子」の死の首なのであった。

併し、次の情景が私達を更に愕かした。不意の闖入者と花子とが緊と抱き締めて、ものも云わずに黒い地面にうずくまったからである。

小さい花子の話

ロダンさんは、一九○六年マルセーユに、カムボジヤの触妓の素描をしにやってきたのです。当時私は、当市で開催されていた、植民地博覧会に、東洋曲芸団の花形として出演していました。観客は私のことをプチトアナコと云って人気者だったのです。ロダンさんはコート・ダジュールの華美なノアイユ旅館から、度々妾のお芝居を見にいらっしゃったのだそうです。妾達が最初におあいしたのは、カバレット・トアズンドルの舞踊会でした。妾は支配人と一座のジョージ・佐野(妾はこのアメリカ生れの日本人を愛していたのです。)に連れられて、歌劇の女がカカオを喫しているフランスの香のなかに哀愁的な東洋女の花を咲かしたのです。カバレット・トアズンドルの舞台では、ターバンを巻いた印度人が、細腰のヒンズー女を抱いて、宗教的な怪奇な踊りを舞っていました。妾は、皮膚の色褪せた波斯族、半黒黒焼の馬来人、衰微した安南の舞姫の裡にあって、日露戦争役の小さい誇を、桜の花の咲いた日本の衣服に輝かせていました。