轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

ヒルミふじんのれいぞうかばん

ヒルミ夫人の冷蔵鞄

海野 十三

「科学ペン」三省堂、1937(昭和12)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,412 字 · 29 页

青空文庫

しかし新しい治療をするについては、面倒でも、しっかりした臨床実験の上に立つことが必要であった。そのためにヒルミ夫人は朝早くから夜遅くまで、手術着に身をかため、熱心に入院患者を切ったり縫ったりした。

ヒルミ夫人の評判は、いよいよ高くなった。博士は結婚せられてたいへん仕事に熱心を加えたという賞讃の声が方々から聞えた。全くヒルミ夫人は、その昔、田内新整形外科術をマスターするために見せた熾烈なる研究態度のそれ以上熾烈な研究慾に燃え、病院のなかに電気メスの把手を執りつづけたのである。しかしヒルミ夫人の研究熱は、その昔の純粋なのに比べて、これはただ若き夫万吉郎に媚びんがための努力であったとは、純潔女史のために惜しんでもあまりある次第だが、なにがこうもヒルミ夫人を可憐にさせたかを考えるとき、夫人の夫万吉郎に対する火山のように灼熱する恋慕の心を不愍に思わずにはいられない。

不愍がられる値打はあったであろうヒルミ夫人の立場であったけれど、その狂愛の対象たる万吉郎にとって、それは必ずしも極楽に座している想いではありかねた。

早くいえば、不良少年あがりの万吉郎にとっては、ヒルミ夫人一人を守っていることに倦き倦きしてきたのであった。