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フシギなおんな

フシギな女

坂口 安吾

「新潮 第四八巻第五号」1951(昭和26)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,406 字 · 35 页

青空文庫

とにかく、時間は気にしても、すでに現場が発見されて手がまわっているかも知れぬことや、人に疑われそうな挙動を残して歩くことが不利であることなどをてんで気にかけない様子は、牛の如くに鈍重な、しかし金を握ることに対してのみは地底の火の如くにまッしぐらな逞しい意志力を感じさせるじゃないか。それとも、時間ということに、秘密な重大な意味があるのかも知れん。この怪牛のような女にくらべれば、左文嬢などはなんと人間らしく可憐であるか、その比ではないのである。

帝銀の犯人だって、一同がバッタバッタと倒れるや、ことごとく慌てふためき、開け放しの金庫の中に見えている大金に注意する精神力もなく、目前に有り合せの金を握って逃げたのである。この犯人は、行員を殺すことを意志してはいても、眼前に死ぬ人を見て、空想とちがった現実に慌てたところがあったのだろう。

わが太田成子嬢ははからずも四人をメッタ斬りにして、それほど慌て、おののいている様子はないらしいや。多くの人に顔を知られているのに、すぐ現場の近所をうろつきまわって、時間だけは気にしても、捕われる不安の様子がないのだから。ただ時間だけ念頭にかかるという妙な一途な思いつめ方の奇怪さは論外だ。