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フロレンス・ナイチンゲールのしょうがい
フロレンス・ナイチンゲールの生涯
宮本 百合子
「婦人朝日」1940(昭和15)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,310 字 · 21 页
軍医、看護卒、看護婦、病院関係の諸役人と大臣たちも、ナイチンゲールを天使とは考えられない人々の群であった。おそろしい無秩序と官僚風のしみとおったスクータリーへ、新しい敷布を一とおり行きわたらせるためにでもナイチンゲールは、厳格な方法、きっちりした規律、些事をゆるがせにしない厳密な注意、不断の努力、不屈の意志と断乎とした決心が入用であった。彼女の平静な表情の下に燃えさかっている情熱、澄んだ静かな声の中にこもっていて一旦その声に命じられたら服従せずにいられない一種独特な権威、それらは臆病の夜鶯の持ちものであるはずはない。おだやかな優しさや、いわゆる女らしい自己否定で、彼女はクリミヤでの業績をなしとげたのではなかった。この一行がはじめコンスタンチノープルに近づいた時、一人の看護婦が「上陸しましたらすぐ可哀相な人々の看護をはじめましょう」といったに対して、「一番丈夫な人たちは洗濯盥にかかって貰いましょう」と答えた彼女の実際の鋭い洞察も、記憶さるべきところではないだろうか。
戦争が終って四ヵ月後の一八五六年の夏、フロレンス・ナイチンゲールはクリミヤの天使として民衆の熱狂に迎えられながらイギリスに帰って来た。