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フロレンス・ナイチンゲールのしょうがい

フロレンス・ナイチンゲールの生涯

宮本 百合子

「婦人朝日」1940(昭和15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,310 字 · 21 页

青空文庫

小さいこの上流の令嬢が、あるとき一匹の犬が負傷しているのを見て大層可哀そうがって、折からそこにいあわせた牧師を大人のように命令して手伝わせながら、その傷の手当をし、副木をつけてやるまでは満足しなかったというエピソードが、生れながら慈悲の女神であったフロレンスの逸話のようにつたえられている。が、この插話がもし実際あったことなら、本当の面白さは後から粉飾された小天使めいた解釈とは別のところにあると思われる。小さい犬を可哀そうがる心は、子供にとって普通といえる自然の感情だけれども、その感情を徹底的に表現して、犬の脚に副木をつけるまでやらなければ承知できなかったフロレンスの実際的で、行動的な性質こそ、彼女の生涯を左右した一つの大特色であったと思う。そして又、その小さい少女の彼女が、牧師を終りまで手つだわせねばおかなかった独特の人を支配してゆく力、それもやはりこの婦人の生涯をつらぬいた特徴ある一つの天稟であった。

ロンドンの住居は、当時社交界のよりぬきの人々が住んでいたメイフェアにあった。ダービーシアに別邸があり、次第に若い令嬢として成長して来たフロレンスの生活は、子供部屋から客間へ、舞踏の広間へと移って行った。