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フロレンス・ナイチンゲールのしょうがい

フロレンス・ナイチンゲールの生涯

宮本 百合子

「婦人朝日」1940(昭和15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,310 字 · 21 页

青空文庫

こういう看護婦というものがどんな不徳、冷血、不潔でおそろしいものであったかディッケンズの小説によく描き出されている。病院の看護婦といえば、風紀のみだれたもの、という代名詞のように思われていた。酒気を帯びないで勤務している者は一人もないという状態であった。他ならぬそういう看護婦の中に入って行こうというのであるから、フロレンスの周囲が驚倒したのもいわばもっとものことであったろう。

フロレンスの申出は、断然反対された。フロレンスはこの第一歩の挫折を、決して自分の生涯の計画の挫折としてはうけとらなかった。それから後の八年という歳月は、フロレンスの上流令嬢としての生活の底におそるべき不屈な努力と実力の蓄積とをはらんで進行した。この表面の挫折に遭うまでのフロレンスは、何といっても自分の境遇の条件にしばられている一方であったが、この八年に、彼女は不撓な精神で、自分の境遇の条件を一貫した目的に従わせ、そのために活かしてつかって行くという生涯の態度を学んだのであった。

この期間にフロレンスは医学調査会の報告や、衛生局のパンフレットや、病院、孤児院などの沿革をむさぼり読んだ。