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ボニンとうものがたり

ボニン島物語

久生 十蘭

「文藝春秋」1954(昭和29)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,772 字 · 41 页

青空文庫

二万人ほど窮民を集めたが、重湯を啜らせる方策もたたない。

難民は救い小屋から四方へあふれだし、五十人、七十人と徒党を組んで町家に押しこみ、穀物はいうに及ばず、家財道具まで奪いとったうえで、家を焼いて立退く、といった体の乱暴を働くようになった。お救い米を宛てにして、大勢の難民が子供を連れ在方から出てきたが、お救い小屋が廃止になったので、子供に食わせる道がなく、生きたまま叺や俵に入れて川に流した。

城下の町民のうちに、餓死を恐れて自殺するものが多くなった。潔いものもあり、未練なものもあり、死態はいろいろだが、名を惜しむものは、一人で森の中へ入って縊れ、あるいは石を抱いて渕川に身を投げて死んだ。駒三郎の大祖父は、お救い小屋の不成就を恥じ、町民に姿をやつして森に入り、庶民とおなじようにして縊れて死んだのである。

三人はしめやかに酒をくみかわし、それぞれもの思いに沈みこんでいたが、やがて久太夫は片口の酒の滴を払うと、いわくありげに二人の顔を見た。

「大曽祖父の死にかたも、生仲なものではないが、おれ、七尾、深志の三人の父の不幸にまさるものはないだろう。おぬしらは、父達が南部の産物を長崎へ持って行って商法の手違いをやらかし、その申訳に腹を切って死んだと聞かされていたのだろうが、それは表面のことで、内実には、こんな事情が