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マクシム・ゴーリキイのひとおよびげいじゅつ
マクシム・ゴーリキイの人及び芸術
宮本 百合子
「婦人公論」1933(昭和8)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,075 字 · 30 页
ゴーリキイはそういう口笛に合わせる笛をもって生れて来ていなかった。当時ロシアにはびこった機械主義的マルクス主義の理解によって、真理に近づこうとする正当な努力の方向をそらされたのはもちろんゴーリキイ一人でなく、例えば当時ニージュニイで急進的文化活動の中心をなしていた作家コロレンコはそのゆがめられた機械的見解に納得できないままに「唯物論」そのものまでを一種の流行的思想という風に見た。コロレンコは「人生は無数の妙にからんだゆがんだもので合わさっていて」、「それを理論的組立ての四角い中にはめこむことは困難である」と話し、ゴーリキイもそれはそう考えた。二人とも、コロレンコにあっては知的蓄積、ゴーリキイにあってはその鋭い生活的追求力にもかかわらず、正統なマルクスの唯物論というのは、複雑な現実を切って殺して理論の四角い枠にはめるのでなく、逆に最も錯綜し、からみあった事物そのものの根元的矛盾をそのいきいきした発展の道ゆきに於て明らかにし、見透しを与え、より真理に近づく可能性をもつものであることを理解し得なかったのである。
このことはゴーリキイの生涯にあっては後々も或る尾を引いた。